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191

--処刑場--

賢者「やめるんだみんな!こんなこと、誰も得しない!!」
 
踊子「……裏切り者……くそ……あの時殺しておけばよかった」
 
ボタボタと大量の血が踊子の腕から流れていく。

賢者「踊子……さん」
 
踊子「一緒に旅した仲だったから……どうせ何かをする度胸も無いと思ったから……生かしておいてあげたのに」
 
賢者「ッ!」
 
踊子「勇者様は、どこだ」
 
ポタポタッ、シュー
 
地面に落ちた踊子の血が沸騰して蒸発する。
 
踊子「勇者、様、は……」

受付(!いけませんね)

踊子「勇者様、は、」

踊子の体の節々が切れ始め、そこから違う属性が溢れだす。

踊子「勇者様はどこだあああああおs8えygtq948えういがねrぐくぁ!!」
192

--草原--

軍団長「……」

勇者「……」

草原に二人は立っていた。二人だけが立っていた。

勇者「これは……どういうことなの?」

軍団長「……」

勇者は軍団長に鍵を渡されて、自分の手錠を解いている。

カシン

勇者「盗賊」

軍団長「……あいつのことだ。わかってたんだろうな。こうなることを前提に、うまく事を進めているに違いない」

勇者「え?」

ガラン

軍団長は大剣を投げる。

軍団長「手に取れ」



193

--草原--

勇者「これ……」

軍団長「お前が使っていたものだろう?持ってきた」

勇者「盗賊」

軍団長「もう真実を知る術はない。俺達には……闘争しか残されていない」

シャリン

軍団長はナイフを引き抜いた。

軍団長「俺は見事魔王を打倒し、勇者になる」

勇者「君と戦う理由なんて、もう、ないよ」

軍団長「取れ」

勇者「無理」

軍団長「取れ!!」

勇者「嫌だ!!」



194

--草原--

軍団長「ならば、黙って死ぬというのか!?魔王!!」

勇者「……うん」

軍団長「!?」

勇者「もう私は駄目だと思う……幻覚は見始めるし、角は生えてきた。多分……これから幻覚に悩まされて少しずつ人格が壊れていくんだと思う」

軍団長「……ならば闘って死ね」

勇者「首を、はねてよ。ひと思いに。かつて仲間だった君と戦いたくなんてない。ましてや私は勝っても何も得るものがないんだから」

軍団長「……馬鹿が」

ガっ!!

軍団長は勇者の首を掴む。

軍団長「俺の仲間の命を奪っておきながら、そんなつまらない死を選べると思ったのか!?」

勇者「がっ!わ、私はもう、戦いたくなんてない」

ドサっ!!

軍団長「剣を取れ!!戦え!!何を諦めている!?お前の人生全てが無駄だったとでも言うつもりか!?」

勇者「ッッ!!君にはわからないよ!!ずっと勇者だと言われて生きてきたのに!!やっと魔王を倒したと思ったら今度は自分が魔王だなんて!!」

ひどすぎるよ、と勇者は頭を抱える。



195

--草原--

勇者「盗賊……君は勇者になりたいの?」

軍団長「無論」

勇者「……。でも、勇者になったらその後魔王になっちゃうかもしれないよ?」

軍団長「ならばその前に自分の首をかっきるまで」

勇者「……私には自殺させてくれないのに?」

軍団長「当たり前だ」

勇者「……不不」

勇者はしゃがんで大剣に手を伸ばした。

勇者「わがまマデ、いじッぱりで、意地悪だネ」

軍団長「……」

勇者「わかッタよ。これが私が君に最後にシテあげラれルコとだ。君を……勇者にしてあげる」

ブオン

勇者は大剣を構えた。

勇者「王国出身、魔王討伐部隊最高職、勇者。参る」



196

--草原--

ガギン!!ギガン!!

自分の弱さを隠して来たルートと、自分の弱さを見せたルート。

軍団長「はあああああああ!!」

ギンギンギギンっ!!

そのささいな差はあまりに大きな違いを生んだ。

勇者「あああアアァああ!!」

ギャイン!!ガっ!!

勇者の鋭い斬撃を受ける度に、軍団長の左目がギュルギュルと回転しだす。

軍団長「っづ!!風属性攻撃魔法レベル3!!」

勇者「!!火属性攻撃魔法レ」

軍団長「罠魔法、真空領域!!」

シュウウッ

勇者「!!」(私の掌の周囲だけに真空の領域を作る罠!?)

ブシャアアッ!!

風の刃が勇者の肌を切り裂く。

勇者「きャアああっ!!」



197

--草原--

シュンっ!!

風で加速した軍団長は、勇者に飛びかかる。

軍団長「っ!終わりだ!!」

軍団長はナイフを勇者の首筋に振り下ろす。

勇者「ッ!!ああああ!!」

それを勇者は素手で受ける。

ブシュッ

勇者「っ!!」

軍団長「はぁ、はぁ!!ぐっ!!」

軍団長は、自分のものとは思えないほどの憎しみが、左目からあふれ出てくるのを感じていた。

ゴロっ



198

--草原--

ドッ!

軍団長「ッ~!!」

馬乗りになっていた軍団長を弾き飛ばし、勇者は体勢を整える。

ひゅんひゅん

そして大剣を振るい、軍団長へ。

ガギャァン!!

軍団長の技量を持ってしても受け損なうほどの一撃。

ブシャッ!!

軍団長は胸部から腹部にかけて大きく斬られてしまう。

軍団長「がはっ!!」

ゴロゴロ

それに呼応してか、軍団長の左目が不規則に動き始める。

軍団長「がっ、があああああああああああああ!!」

勇者「!?」

軍団長の左目から突如黒いオーラが噴き出し、軍団長の体を覆い尽くした。

軍団長「ユウウシャアア!!」

ドガっ!!



199

--草原--

渾身のタックルを食らい跳ね飛ばされる勇者。

勇者「ッ!!」

腕を地面に突き立てブレーキをかける。

ギャリギャリギャリイイイ!!

勇者「とう……ぞく。……オオオオオオ!!!」

負けじと、勇者も体から黒いオーラを出した。

ゴゴゴゴゴ

軍団長「ウアアアアアア!!」

勇者「オオオオオオオオ!!」

ギン、ギン、ギギャアン!!!!

目にもとまらぬ高速の斬り合い。
黒い閃光は互いにぶつかり合って、片方が弾き飛ばされてはまたぶつかる。

ドギャアアアアアアアアン!!



200

--処刑場--

受付「やれやれ……中々苦戦しましたね」

受付は折れた左腕を見て苦々しく呟いた。

上等兵「怪我人の確認を急げ!!」
 
慌ただしく走り回る兵達。
 
受付「……」
 
賢者と闘士はもつれあって死んでいた。
 
受付「……」
 
魔法使いは下半身を吹き飛ばされた状態で転がっていた。
 
受付「……まさか人造勇者のプロトタイプがあそこまでやるとは……ヤりそこねました」
 
受付は悔しそうに顔をしかめる。

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