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171

--軍団長室--

シノビ(あ、あー!やばいよやばいよー!!はっ!?)
 
ゴゴゴ
 
軍団長が下のスペースを覗こうとした時、
 
シャッ!
 
軍団長「!?」
 
鳥モンスター「ぴぎぃ!!」
 
バササ!!
 
鳥のモンスターが飛び出した。
 
軍団長「!」
 
鳥モンスター「きしゃば!」
 
バサバサ
 
鳥モンスターは暴れて部屋を荒らす。
 
軍団長「こいつ。こいつがこの部屋を荒らしたのか?」
 
ガシッ
 
飛び回るモンスターを容易く捕まえる軍団長。
 
172

--軍団長室--

軍団長「……」
 
バサッ
 
軍団長は鳥モンスターを窓から投げ捨てた。
 
軍団長「ベッドの下から、出てきたな」
 
軍団長は再びしゃがみ、ベッドの下を確認した。
 
軍団長「……」
 
ベッドの下にはだれもいなかった。
 
シノビ(ごめんよ九郎!後でおいしいご飯あげるから!)
 
シノビが部屋から出
 
バチッ!!
 
シノビ「!?」
 
シノビの足元に紋章陣が浮かび上がる。
 


173

--軍団長室--

シノビ(しま、この人は罠の達人だった!!)
 
ゴゴゴ
 
軍団長「部屋の入り口には既に、罠をしかけておいた」
 
軍団長はゆらりと立ち上がるとシノビに近づいてくる。
 
シノビ(か、完璧に動けない。そんな)
 
軍団長「誰の差し金かわからないが、返してもらうぞ。記憶読みの書」
 
シノビ(!!ばれてる!!)
 
こつ
 
こつこつ
 
シノビ(はーっ、はーっ)
 
ガシッ
 
軍団長はシノビの肩を掴んだ。
 
軍団長「こっちを向け」
 


174

--軍団長室--

軍団長が振り向かせようと肩に力を込めた瞬間、
 
ずるり
 
軍団長「!!」
 
肩がまるで粘土のように変形した。
 
シノビ「間に、合った」
 
ぐじゅる
 
シノビの全身がアメーバのように変化していく。
 
軍団長(こいつ!)
 
ぐじょぐじょ
 
軍団長「!その本を返せ!!」
 
ぐじゃり
 
シノビの持っていた本は、シノビと同じように溶けていく。
 


175

--軍団長室--

シノビ「あはは、さようなら」
 
じゅるん
 
シノビと本は、床の隙間に消えていった。
 
軍団長「!!バカな!!」
 
軍団長の手から、はらりと髪の毛が床に落ちる。
 

--軍団長室の下の階--

シノビ(あ、あっぶねー……スキル再使用までの時間が本当にギリギリだった……)
 
シノビは一つ下の階で安堵の息をもらす。
 
シノビ(本は……始末する)
 
シノビは小さなビンを取り出した。
 
ゆら
 
そのビンの中には火が入っていた。
 
シノビ「……」
 
 

176

--魔法使い家--

誰も住んでいない朽ちた家。そこに四人は集まっていた。

踊子「しかしどうしましょ~勇者さんをどうやって取り戻しましょーか~」
 
賢者「取り戻すって……踊子さん!?勇者さんは魔王になってしまったんですよ!?」
 
闘士「け、賢者」
 
踊子「はぁ~?だからなんだって言うんですか~?」
 
賢者「いわれもない理由で捕まっているのならともかく……王国を敵に回してまで勇者……さんを助ける必要なんてない……」
 
魔法使い「てwめwぇw」
 
闘士「……」

賢者「勇者さんは、敵を倒すためならいかなる犠牲もいとわないような人だった。正義とはそういうものなのかもしれないけれど、僕には正直ついていけなかった」
 
踊子「……ッ」
 
賢者「彼女の行きすぎた力、彼女の行きすぎた正義、そして王様の話とあの角……勇者さんは」
 
踊子「なら勝手にしたらいいじゃないですか~」
 


177

--魔法使い家--

賢者「え?」
 
踊子「そんなに不満があるならこのパーティやめちゃえばいいですよ~」
 
闘士「!!」
 
魔法使い「そうだそうだやめちまえwww」
 
踊子「私は勇者さんが勇者だからついてきたんじゃない、あの人だからついてきたんだ」
 
踊子の怒気をはらんだ真面目な表情を前に、賢者は目を逸らしてしまう。
 
踊子「あの人が例え勇者じゃなくなったとしても、人類の敵である魔王になったとしても、あの人の本質は変わらない、あの人はあの人のままなんだ」
 
賢者「踊子さん……」
 
踊子「なんでも知っているようでなんにも知らなくて、強く振る舞っていても本当は弱くて、自分の行動が正しいのかわからない、それでもあの子は怯えながら剣を振るっているんですよ、ずっと」
 
闘士「お、おで」



178

--魔法使い家--

踊子「それをよくも」
 
賢者「ごめん……それでも僕はそんな風には考えられないよ」
 
魔法使い「wwwwwwwww」
 
賢者「だって勇者さんは泣かないんだ」
 
そして笑わない。彼女はただたんたんと魔を狩る人形で、僕らは彼女の駒。胸の内は何も打ち明けられない。
 
賢者は立ち上がる。
 
賢者「今までありがとう。僕は、このパーティを抜けるよ」
 
闘士「!?」
 
踊子「……そして王国側につくんですか?」
 
賢者「情報を洩らしたりはしないよ。そこまで……ダメじゃない」
 
闘士「け、賢者!」
 
魔法使い「賢www者wwwww」
 
賢者「……ごめんよ」
 
賢者が勇者パーティから脱退した。
 


179

--地下牢獄--

勇者「……私……もっと素直になればよかったかな。自分の弱さを見せたらよかったのかな」
 
勇者は牢獄の中で消え入りそうな声を出す。
 
勇者「でも自分の弱さを見せるなんて怖いじゃない。弱さを見せる強さも覚悟も、私には無いんだよ」
 
勇者の頬を涙が伝う。
 
???「それは別に君が気に病むことじゃないよ」
 
勇者「!?誰!?」
 
誰もいないはずの牢獄。
その闇から声が聞こえてくる。まだ声変わりもすんでいない綺麗な少年の声が。
 
???「弱さは他人が感じ取るもの。周りが気付いてあげられたらよかったのさ。その点では、君は、仲間の選択に間違えたんだ」
 
勇者「君、は」
 
???「やぁ、久しぶり。君はまたそんな悲しい顔をしているんだね」
 
 

180

--軍団長室--

軍団長(勇者の過去を読むことは出来なくなった。これで記憶から真実を知ることは不可能……)
 
軍団長はベッドで横になり天井を見ている。
 
軍団長(ならば、もう迷うことなく)
 
軍団長は天井に向かって伸ばした手で握りこぶしを作る。
 
軍団長「……」
 

--特別室--

シノビ「こ、怖かったです」
 
受付「ご苦労様。無事始末出来たようですね」
 
シノビ「はい。多分顔もばれてないかと」
 
受付「……見られていなくとも、記憶読みの書を奪ったのが私達であると、彼は思っているでしょう」
 
シノビ「えぇ!?そ、それじゃ」
 
受付「いえその場で捕まったのでなければ大丈夫です。対等な関係ならいざ知らず、彼は私達に大切なものを握られているのだから」
 
シノビ「な、なるほど」
 
受付「証拠も無いのに突っ掛かってはこないでしょう。知られたくない裏事情が王国にはある、と考えてるとは思いますが、全てが疑心暗鬼。既に勇者への疑いが晴れることはありえません」
 
全ては想定の範囲内です、と受付は紅茶を口にする。
 
受付「後は……処刑日を待つのみ」

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